2005年09月27日

夏の花

原民喜の『夏の花』を読み返した。
彼は広島在住の作家で、原爆に被爆する直前に妻を結核(と糖尿病)で失い、その心の傷も癒えないうちに被爆してしまった。その、妻を失うに至る話から、被爆して体ももちろんのこと、心に大変なダメージを受ける話、そしてある女性との出会いによって(恋愛関係ではなかったというようなことが書かれてある)立ち直りかけるものの、アメリカのある発表に絶望して鉄道自殺するまでの、代表的な作品が入っていた。

彼の文章はとても静謐で繊細で美しく、世の中に対する怯えすらも行間から匂ってくる。それはそのまま彼の人柄なのだろうと思う。若いうちは放蕩を尽くしたらしいが、繊細さゆえに何かに耽溺してしまうことはよくある話だ。

戦争中とは、平時よりもなおいっそう図太くしたたかに、ある種醜いまでの貪欲さと執着心がない限り、生きていくのが難しい時代だったんじゃないかと思う。その中で、彼のように不器用で心がか細い、はっきり言うと日常生活を送るのが下手な人は、本当にしんどかったと思う。彼に降りかかる様々な事件もさることながら、ほぼ永続的に彼を取り巻いている日常そのもののつらさが作品からひしひしと伝わってきて、なんだかたまらない気持ちになった。


posted by まる子 at 23:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍(マンガ含む) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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